アンチバイオグラム作成ツールについては以下の記事へ

犬猫でも抗菌薬耐性菌が増えてきている

ヨーロッパやアメリカで、小動物医療領域での薬剤耐性菌の罹患率が上がっていると報告されています。日本でも、農林水産省が「愛玩(伴侶)動物(犬及び猫)由来細菌の薬剤耐性モニタリング」というのを平成29年度から開始され、現在3年間分の結果が公表されています。結果はこちら動物医薬品検査所

人医療では病院ごとにアンチバイオグラムを作成し、活用することが普及してきています。具体的には、病原菌の薬剤耐性のモニタリング とアンチバイオグラムを元にした抗菌薬投与計画を作成することがおこなわれています。

アンチバイオグラムとは?

引用:アンチバイオグラム作成ガイドライン 2019 年 3 月 感染症教育コンソーシアム アンチバイオグラム作成ガイドライン 作成チーム

アンチバイオグラムとは
微生物の薬剤感性率は、地域ごと、あるいは施設や患者背景ごとに異なることが多いため、それぞれをモニタリングする必要がある。アンチバイオグラム(Antibiogram;抗菌薬感受性率表)とは、ある施設、ある一定期間において分離された微生物の各種抗菌薬への感性率(%S, percent susceptible)を表形式にしたものである(図1)。

引用:アンチバイオグラム作成ガイドライン 
2019 年 3 月
感染症教育コンソーシアム
アンチバイオグラム作成ガイドライン 作成チーム

小動物領域でのアンチバイオグラムの取り組みについて

農林水産省は、2020年に「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き」を作成しています。手引きは、臨床の観点から感染症対策の重要なトピックを網羅しているので勉強になります。手引きでは、アンチバイオグラムの作成についても言及されています。

薬剤耐性菌対策には適切な抗菌薬選択が重要です。病院ごとに作成したアンチバイオグラムは、適切な抗菌薬を選択する上で有用な情報になります。さらに、当該病院の耐性状況がアンチバイオグラムから把握できるので、重篤な状態の動物に対して動物の種類や年齢、性別、基礎疾患といった背景、感染病巣及びグラム染色の結果をもとに適切な抗菌薬を速やかに選択する一助になります。

愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き

いつからアンチバイオグラムが小動物医療に取り入れられたのでしょうか?インターネットで検索すると、山口県のみやもと動物病院の宮本先生・嶋田先生が2011年にアンチバイオグラムに関する論文を発表されているのを見つけました。この論文には、以下の記述があります。

獣医領域では多くの感染症症例において細菌同定と感受性検査が行われていないこともあり,アンチバイオグラムはこれまで報告されていない。

犬猫の各種感染症における原因菌とアンチバイオグラム (2011 嶋田ら)

比較的歴史の浅いものだということがわかります。

アンチバイオグラム活用方法

感染を疑う奨励を診察した際に、培養検査を出しても結果は数日後にしかわかりません。抗菌薬の感受性がわからないからと言って、なにもしないで患者を帰すわけにはいきません。初期治療における従来の抗菌薬決定方法は、教科書の知識や感染部位から菌種を推定して初期治療の抗菌薬を決めていました。培養結果が分かった後に、感受性のある抗菌薬に切り替えます。(初期治療で治ってしまうケースも多い)しかし、この方法だと外国の教科書のデータや日本全体のデータを使用していることになります。

アンチバイオグラムを活用することで、病院のデータに基づいた治療ができます。地域によって耐性菌の分布がことなるため、こちらのほうが精度の高い治療ができます。

現在のアンチバイオグラム活用方法の課題

課題を先に書くと、グラム染色では菌種が特定できないため、結局は推測で菌種を想定してアンチバイオグラムを見ていること。だと思います。結局最後は、菌を想定して、その菌の感受性データに基づいて投与するしかないです。この想定の部分が、Evidence based medicineの観点から見ると、大きく減点されてしまう部分だと考えます。

愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引きで推奨されているのは、感染疑いがある場合にはグラム染色して、グラム陽性または陰性、球菌又は桿菌の鑑別をして(カンジダ、アスペルギルス、マラセチアなどの真菌についても推定が可能)から、病院のアンチバイオグラムを眺めて、抗菌薬を選択するように書かれています。

グラム染色が教えてくれるもの

人の総合病院で大量の検体を扱う訓練された検査技師さんであれば、ある程度の精度でグラム染色から菌種の推定ができるようです(すごすぎる)。ただ、喀痰検査とか、菌が見やすい検体においての話なのかなと想像します。

私がグラム染色で分かるのは、形に特徴がある菌を除いて、赤or青、丸or棒、という色と形の情報です。しかしその2つの情報でさえ、いろんな菌がいてどれが感染原因の菌なのかわからず、赤か青だか断定できない場合もあります。形が丸である場合には、連鎖or塊の情報もわかることがあります。よって条件がよければ、色、形、つながりの3つの情報を得ることができます。そして、同時にここが限界です。グラム染色の教科書には、とてもわかりやすい写真を用いてこれがこの菌だと教えてくれますが、私のサンプルはわかりやすいものは多くありません。私には、菌種の特定はできそうにありません。

アンチバイオグラムが教えてくれるもの

アンチバイオグラムは菌ごとの感受性割合が書かれています。菌が分かれば、どの薬が効くかをアンチバイオグラムが教えてくれます。

つまり??

グラム染色では3つの情報が得られる。一方、アンチバイオグラムは、菌ごとの感受性を教えてくれるが、グラム染色パターンに合わせた感受性はおしえてくれない。このギャップを埋めるためには、アンチバイオグラムを3つの情報に合わせて作り、3つの情報ごとに感受性を教えてくれるものにしたらいいのではないか。

改善方法の提案:アンチバイオグラムをグラム染色パターンごとに感受性が分かるように作り変える

アンチバイオグラムの染色パターンは以下。

① 色:赤(グラム陰性 GN – Gram Negative)・紫(グラム陽性 GP – Gram Positive ) 
② 形:丸(球菌 Cocci)・棒(桿菌 Rod)
② 形:丸の場合 → ③ つながり:連鎖(Chain)・塊(Cluster)


グラム染色パターンに合わせて改善したアンチバイオグラム例

数字はランダムに入れたので参考にしないでください。
見方は、以下。
全て合わせて1000検体ありそのうち
  GP(グラム陽性)は500検体ありそのうち
    GPC(グラム陽性球菌)は400検体ありそのうち
      GPC-cluster(グラム陽性球菌塊状)は300検体
      GPC-chain(グラム陽性球菌連鎖)は100検体ありそのうち
        Enterococcus は50検体
それぞれ、検体に合わせて感受性率が記載されています。

グラム染色をして、色・形・つながりの情報を得ることができれば、それに合わせて感受性がわかります。例えば、紫、丸、連鎖という情報が得られれば、GPC-clusterの感受性を見て、初期投与抗菌薬を決定します。

まとめ

提案したい抗菌薬決定方法は以下の図の通りです。グラム染色パターンアンチバイオグラムを作成しておけば、グラム染色から初期投与抗菌薬を決定することができます。

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